はじめに

「川畑教授の楽寂静ノート1」を当時の大学研究室のウェブに柴田俊生助教にお願いして記載したのは2011年3月4日のことです。「楽寂静:ぎょうじゃくじょう」とは、道元禅師が示寂される間際に、弟子たちに向けて説かれた八大人覚(はちだいにんがく:八つの大人の日々を心楽しく暮らすための眼目・心得)、すなわち小欲(しょうよく)・知足(ちそく)・楽寂静(ぎょうじゃくじょう)・勤精進(ごんしょうじん)・不妄念(ふもうねん)・修禅定(しゅぜんじょう)・修知恵(しゅちえ)・不戯論(ふけろん)のなかの3番目で、都会の人込みや煩悩を避けて、静寂を楽しみとして過ごすべしとの教えになります(フォト15)。

私が50歳を過ぎた頃、道元禅師の「正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)」その弟子の懐弉(えじょう)禅師の「正法眼蔵髄聞記」に出会って、私のそれまでの宗教への理解が壮大な哲学へと一変し、愕然としたことを憶えています。道元禅師の教えのひとつに「真の仏法(宗教)は来世を問わず」とあり、現世の迷える人々を救う手段として、来世の概念(浄土・天国・地獄など)、さらには自身・祖先・他人の霊魂などを持ち出すのは、真の宗教ではないと断じたのです。迷える人々は、未来に希望をいだき、高齢者は来世に期待をかけたがる傾向にあります。しかし、近代詩人堀口大学の「現在教秘儀」の一節に「過去は怠け者の幻だ 未来は馬鹿者の希望だ われ等 生く可き時は一つしかないのだ それは現在の一秒だ 今日を惜しめよ 今の時を惜しめよ 今秒をよりよく生きよ」と示唆しています(フォト 1)。まさに、道元禅師の教えと重なります。

先日、40数年ぶりにある研究者と出会う機会がありました。その方から、長年の「川畑教授の楽寂静ノート」の読者のひとりであるから、九州大学退職後(フォト 2フォト 3フォト 4)も継続してほしいとの要求を頂きました。これを機にこれまでの「楽寂静ノート1~26」を含めた新たなウェブサイトを立ち上げた次第です。

2023年11月24日