楽寂静ノート13:就活考

 大学院生が2年生に進学すると、その多くが講義や研究には目もくれず、就職活動(就活)に全身全霊を注ぎ込むようになる。本来、就活は課外活動として余暇や長期休暇(年間計4か月)を利用すべきものであるが、学期中のウェークデイが活動の中心となっている。「なぜ企業は週末や長期休暇に試験や面接をしないのか」と院生に質問すると、「週末や休暇時期には、重役や役員が出社しないことが多いためです」と答えてくれた。もし、院生の講義等への出席率を考慮すれば、就活生の多くは落第となるはずである。今や大学の教育・研究者の多くが、就活は大学カリキュラムの必須科目であると洗脳されてしまった感がある。

 

 院生らは授業料を満額で納入していながら、学業には手をつけることなく、担当者を変えた幾度もの面接対応に多額の旅費と労力を費やし、内定を得るまで数か月~1年の時を過ごしている。それでも、内定を得た院生は、残された時間で研究をやり、青息吐息でなんとか修士論文を提出するのである。私は就活そのものを否定するわけではない。就活システムが、本業を大きく阻害している点が問題なのである。長い人生のなかで、直接利益に関わらない学問に集中できる機会は他にないからである。本人にとっても、社会にとっても不利益となろうことは自明である。

 

 読売新聞に、「採用で重要視する点は何か」という主要100社に対するアンケート結果が掲載されていた(2010年3月23日朝刊)。1位:調整力・コミュニケーション力(75社)、2位:行動力(62社)、3位:性格・人柄(46社)、4位:チャレンジ精神(39社)、5位:仕事への熱意(35社)とある。確かにこれらの項目は、人間社会をより良く生き抜く上での必要条件でもある。6位以降は、大学の学部・専攻(2社)、会社・業界への理解度(2社)と続き、学校・入社試験の成績、語学力、資格、社会経験、会社への忠誠心について重要視する企業は、申し合わせたように0社となっている。これが企業の本音であるとすれば、日本の大学教育・研究が舐められていることの重要証拠であり、実は、国民の大多数の本音を代弁しているのかもしれない。

 

 入社後3年以内の離職率を「七五三退社」と呼ぶのだそうである。中卒、高卒、大卒の離職率が7、5、3割であるからである。この傾向は、ゆとり世代の学生たちに特徴的なものではなく、少なくとも25年間は、有意には変化してはいない(厚生省:新規学校卒業者の就職離職状況調査)。もし私が就活生となって「大学では何を学んだか、志望動機は何か」と問われたら、「おやじの年金からの仕送りと奨学金をいただきながら、役に立ちそうにない基礎研究に取組み、原著論文を完成させていただく上で、多くの方々の献身的な協力が必要であったこと、他者を信頼して初めて自分自身が信頼されたことなどを学び」、「これらの経験に基づいて、貴社の多様な業務に対して社員と協力しながら、貴社の誇る製品の開発や販売を促進することで、人々の生活向上に貢献することが志望動機である」としか答えようがない。自分の興味本位ではなく、他人や社会に貢献したいという気持ちがあるからである。

2013年5月17日