地球の熱源は何か

 退職後、自宅にいる時間が増えたので、55型の大型テレビを購入して、ユーチューブ(歴史・音楽・絵画・英会話など)やビデオサービス(映画や警視庁・所轄の事件シリーズにはまってしまった)を見ている。地上波のテレビは午前・午後を問わず、本業を忘れた漫才・芸人の方々が、テレビスタジオや街角の食堂・レストランを巡っては「うまい」を連呼する番組が多い。果たして、まずい料理を出す店が日本に存在するのであろうか。当該の食堂・レストランの宣伝・アピールにはなるのだろうが、私にとっては料理番組のほうが、興味深くかつ実用的である。同じ地上波放送でも、「開運!なんでも鑑定団」と「ブラタモリ」という番組に関しては、両放送が始まって以来、録画して繰り返し見ている。

 

 「鑑定団」は、一般家庭から持ち寄った品々や骨董品に対して、一流鑑定師が判定するという緊張感もさることながら、テレビ局の出品作品に対する調査や作者である芸術家の経歴に関する解説が素晴らしい。日本の本物の芸術家を知る良い機会となっている。「ブラタモリ」は、彼の非凡な観察眼と記憶力に加えて、対象地域の歴史や地質・地形に合わせた専門家が随時登場して、分かりやすく解説してくれる。例えば、温泉の湧きだす条件としては、「水・熱源・熱水の通り道」であり、熱源としては、火山地帯のマグマであるとの解説に、当然ながら納得する。ところが、マントルを熱源とする温泉もあることを知って、心から驚くのだ。自宅に居ながら、大学院生に戻って地質学科の巡検に参加させていただいているようで、ほんとうに面白い。

 

 熱源に関して太陽系に目を転じれば、太陽からふりそそぐ熱や光のエネルギー(太陽放射)により、地球に住むすべての生物は生かされている。逆に、地球内部の熱は、地球表面から大気や宇宙に向けて放射(熱流量)されている。太陽の全エネルギーは、太陽中心部での水素の核融合反応が源であることは周知の事実である。すなわち、4個の水素核が融合して1個ヘリウム核が生じ、その際の質量欠損がエネルギーに変換される。太陽の中心核は約15,000,000 Kという想像を絶する温度に達している。一方、地球の地熱の熱源は核融合反応ではないが、中心部温度は約6,000 Kであり、太陽光球の表面温度に匹敵する。地球の地熱の源は、いったい何であろうか。

 

 15年以上も前のこと、理学部のある会議の合間に「地球の地熱の生成機構」について、隣に座っていた地球物理の教授(マントルの専門家)に質問したことがある。彼は水を得た魚のように、難解な数式を書いて説明してくれた。素人の私が正しく理解したかどうかは、はなはだ疑問ではあるが、1)地球内部が保持している熱は、非常に冷めにくい(地殻やマントルの熱伝導率は金属に比較して非常に小さい)、2)熱源は、ウラン・トリウムを主体とした放射性物質の崩壊熱であるとの説明であった。最近になってグーグル検索したところ、地球内部の放射性物質の崩壊熱の地熱への寄与は、半分程度であり、残りは地球形成時の熱、すなわち「原始の熱」が地球内部に残存しているという報告を見つけた(東北大・東大共同研究:外部リンク1)。放射性物質は、崩壊する際に反電子ニュートリノを放出するが(中性子β崩壊)、神岡鉱山跡に設置されている反電子ニュートリノ観測装置(カムランド)を使用して、その反電子ニュートリノの観測に成功したのである。その観測値から地球全体の崩壊熱を積算して、別に測定されていた地熱の全熱流量から差し引くことで、地球形成時の地熱の残量を算出したという。地球形成時(46億年前)の地熱がまだ冷え切っていないとは驚きである。この「原始の熱」は、宇宙に漂う塵から地球が形成される過程で、鉄原子が中心に集合した際に開放された重力ポテンシャルエネルギーがもとになっている。この冬休みに温泉につかったら、地球創生時の「原始の熱」を感じてほしい(フォト19)。

(2023年12月7日)