思い出 (その3)

 2005年は、スイス特許庁(ベルン)の26歳の特許審査官だったアルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein)が、物理学における屈指の功績である4つの論文を同時に発表してから、ちょうど100年目の年であった。その年は、国際純粋・応用物理連合により、「世界物理年」として制定された。アインシュタインは、1905年に「特殊相対性理論」、「光電効果」、「ブラウン運動」、「質量とエネルギーの等価性」に関連する報告を行っており、「奇跡の年」とも呼ばれている(外部リンク8)。なお、アインシュタインの1921年のノーベル物理学賞の受賞対象となったのは、「光電効果」の理論的解明である。

 

 2005年は、日本国内でも「特殊相対性理論」に関する多くの啓蒙書が出版された。私は門外漢ではあったが何冊か購入して目を通した。興味深いことに、ピタゴラスの定理(三平方の定理)を用いて、「特殊相対性理論」が証明できると記載してあった。自分なりに、高校の物理の時間を思い出しつつ、ノートに書いてなんとか工夫してみたところ、最終的には証明できてとても感動した。そこで、ピタゴラスの定理を知っているはずの中学2年生だった息子に、下記のように図を用いて説明した。

 

まず、直線的に一定速度 v で移動する(等速直線運動)乗り物にのったAと、それを止まって観測しているBを設定する。乗り物に設置した光源から、Aから見て真上に光(光速度C)を発射し、光は t 秒後に乗り物の天井に到達した。その時の光の到達距離は y である。一方、Bには、乗り物が v の速度で移動しているので、天井に光が T 秒後に到達した時の位置は進行方向の距離 x だけずれて観測される。その時の光の到達距離を z とする。これらの x,, z と時間 t と T との関係は、距離は速度と時間の積で表されるので①式となる。第一のポイントは、,, z の関係から直角三角形が作図できるので、,, の関係式はピタゴラスの定理を使って②式を導くことである。次のポイントは、②式を zで辺々割って、③式に変換することである。③式の ,, に、それぞれ①式を代入すると④式となり、最終的には式となる。その式の(v/C2を右辺に移項した式が⑥である。最後のポイントは、両辺の平方根をとることであり、その結果、⑦式となる。光の速度Cを超える乗り物は存在しないので、C>v となる。最終的に⑧式が得られる。

 

 ⑧式は、等速直線運動する事象の時間 t は、それを観測する事象の時間 T に対して短縮するということを明確に示しており、まさにアインシュタインの特殊相対性理論そのものである。なぜ、このような結果が導かれるかというと、ABという異なった事象においても、光の速度Cが変化していないからに他ならない(式)。具体的に説明すると、例えば、200 Km/hの速度で直線的に走行する「新幹線ひかり」に乗車しているAが、進行方向に100 Km/hの速度のボールを投げたとすると、地上で止まっているBにはボールの速度は、200+100300 Km/hと観測される。これを速度の合成というが、光には「速度合成の法則」が成り立たないのである。息子が大学に入学した最初の夏休みに帰省した際、例の「特殊相対性理論」関連の数冊を所望したので手渡したことを記憶している。息子は、現在、三鷹にある国立天文台で太陽の研究に没頭している。彼の益々の研究の発展を祈念したい。 

2024312日)